10年後に飛んだら




10年後に飛んだら目の前に獄寺がいた。


「……」
見上げる背丈。
また、大人の獄寺君?
その時ツナはテスト勉強の最中だった。
当然、集中なんてしてなかったんだけど
未来に飛んだきっかけは、
退屈したランボのイタズラ。

丁度、教科書のAgの記号にぼーっと彼のことを思い出していたものだったから
あまりに出来すぎたシチュエーションに自分の目を疑う。
けどまぎれもない。
相変わらずの髪型と、アクセサリーの趣味。
光の具合で白銀に見える髪に、色素の薄い緑色の瞳。すっかり着こなされたスーツ姿。

マジマジと眺めてしまった。恥ずかしくなる。
とりあえず何か話しかけなきゃ。
けど何て?
獄寺君? 獄寺さん? あ。あれ?
気持ちだけ先走ってうまく言葉が出てこない。自分がびっくりしてる理由がわからない。
だって初対面じゃないのに。
いまさらオレ動揺?
いや初対面って言い方はおかしいだろ。
って考えてる場合じゃなくって、
焦る。
だって前とはぜんぜん違う表情なんだけど。

前に会った未来の獄寺君はすごく落ち着いた雰囲気だった。
見たことのない表情をしていた──ひとことで言うなら、らしくない。

思い詰めてた。
悲しそうなのに、隠してた。
そういう印象をひっくるめて、大人なんだって感じた。
けど今目の前にいるのは……。

こういう獄寺君を見るのもはじめて、かも。

大人なのに、子供みたい。
どういうわけか、ツナと視線を合わせようとしない。
かたくなに明後日の方向を睨んでる。
もしかしてこれ──ふて腐れてる?
や、拗ねてる?
おかげで、いまだツナの入れ替わりに気付いてないんだけど。
とおもったら視線を戻した。焦ったように視線を彷徨わせる……やっと気がついてくれた。
「10代目? どこです!?」
 ……。
「……いやオレ視界に入ってないだけなんだけど」
ツナの声に獄寺が固まった。見下ろす。
「んなっ!?」
「ヒイッ?」
じっと見つめられて怯むツナ。
「こ、こんにちは」
──だ、だから、迫力が。
眼力が、
違う。今の獄寺君も怖いけどすげえ怖い。
なんで? ああわかった下手に綺麗すぎるのがいけないんだヤバイ動悸が高まってきた。

「じゅうねんまえ……」
獄寺はそうつぶやいて、
笑った。

──え?

「助かりました」
はー、と肩の力を抜く。
「いつまでも終わらないんで、どうしようかと思ってたんですよ」
「え?」
「一服、良いすか?」
「……」
咄嗟のことで返事が出来ないツナに、10年後の獄寺は首を傾げる。
「ダメなら我慢しますよ」
「えっ? ええ? いや、いいよ。
 じゃなくて、どうぞ」
「ありがとうございます」
と煙草をくわえる。
「……」
ツナは二の句が継げない。
本当に獄寺君なのか?この人悪い顔をしてる。
訝しげな視線に気がついたのか、獄寺は口の端を上げて笑う。
……なんか、圧倒的。
「や。ちょっとね。説教されてたんです」
こっそり内緒話を打ち明けるみたいに言う。
「誰に?」
聞いてしまってから気がつく。
「オレ?……ですか」
愚問だ。獄寺君の目の前にいるの、オレしかいないじゃん。
オレに怒られてたんだこの人。なんで?
おびえるツナに獄寺はちらりと笑って目を細める。屈んで背の高さを合わせる。
頭をわしゃわしゃされた。
──う。
「そろそろ五分ですかね」
と煙草を消す。
……ちゃっかり証拠隠滅してるし。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
思わず聞いてしまう。
「はい。なにがです?」
「匂い、残ると思うんだけど。その、怒られません?」
「──」
未来の獄寺君は意外そうな顔して眉を上げる。
当然か。叱ってるのは未来のオレなんだろう、なのにオレが忠告してるんだし。
「流石10代目ですね」にかっと笑う。「移動しましょうか」
……。
「あのさ、獄寺君」
「はい?」
「オレ、君の育て方、間違えたのかな?」
ぶはっ。
せき込まれて我に返るツナ。
「あ、あれ? スミマセン! オレ、何言ってるのか」
「ぼっ……ぼうしわけばりばっでっ」
せき込みながら謝られる。
「ヒィッ? ごめんなさいっ!?」
「ち、ちがっスンマセン10代目」
「? あやまってるのはオレの方なんだけど」
「いえ……」
息を整える獄寺。
「おかげですっげえ申し訳ない気分になりました」
「ご、ごめん」
謝ると、獄寺君は腰砕けた感じにうなだれる。
「……勘弁してください。ホント、反省しますから許してください」
「……」
涙目だ。そんなに必死に訴えなくても。
相変わらず、なのかな。変わってないのかな。
「……変なの」
「10代目?」
うすく笑うツナに獄寺は不思議そう。
「二人して謝ってるよね」
「はあ。すみません……」
まだ謝ってるし。
恥いったようにうなだれてる。ふと湧く疑問。
「ところで、君、一体なにをしたの? オレに説教されるとか」
「げ……幻滅しましたか? 未来のオレに」
「げんめつ……」
ダメだ。不安そうな声で聞いてくるから吹き出してしまう。
なんだかな。
すっかりかしこまってる。
よく知ってる獄寺君に戻っちゃった。
安心した、ような。残念なような。
「ううん。見たことがない君の顔、見られてよかったよ」
「はあ……10代目が喜んでくださったなら良かったです」
反射的にそう答えてくれるけど、戸惑ってる。
「あの10代目? それ、どういう意味でしょうか」
「なんて言うか。ふて腐れた表情もみせてくれるってことはさ──今よりも親しくなってるってことだよね? オレ達」
「──」
獄寺君が言葉に詰まった。

そのまま喋らないから黙ったまま見つめ合う。
あれ?
……なんなんだ。緊張が伝わってくる。
つられてこっちまで照れてくるんだけど、勘弁してほしい。
「えっと。今の台詞って、赤面するところ?」
「あ、いえ。すみま」
「謝るの禁止だってば」
「す……」
我慢した。
あきらめたように溜息つく獄寺。
「そうですね……なら礼を言わせて下さい」
「礼? なんで」
相変わらず唐突に意味がわからないこと言うんだなあ……なんて思ってたら

獄寺君はふわりと微笑う。

「ありがとうございます」
「──」
ツナは絶句。
「10代目? どうしました」

「……未来のオレ、ずるい」

びっくりして眉をあげた、
それが最後にみた表情だった。

「10代目!?」
目の前に現れたのはいつもの獄寺君の、ほっとした顔。──丁度、来てたみたい。
「お、おかえりなさいませ!」
「ただいま」

ツナが微笑む。
「君も、おかえり」
「へ? 」
なんで? って表情をする。顔が赤い。
「ん、おかしい? だってオレからみたら君が戻ってきたからさ──おかえり」
「あ。た……はい、戻りました」
獄寺はちょっと緊張した後、にかっと笑う。
「ふーん」
「10代目?」
「いや、何でもないよ」
ただいまとか、言えないんだ。
──まったく。
不意打ちだろ。
あんな風にやわらかく笑った顔、
見せてくれるのはいつになるんだろう。


ツナは溜息をついて、つぶやく。
「早く大人になりたいよ」





せいぞんほうこくー
な感じで。ひっそり日常を更新

まあまた誕生日に乗り遅れたんですけd

いまいちサイトのSSの作法がわかっていないのですが、たまにしか更新しないお陰で向上しません